『2023年のグローバル金融経済の行方〜「成長の臨界」にどう対応するか?』と題して、BNPパリバ証券チーフエコノミスト河野龍太郎氏の講演を拝聴しました。
グローバル不況は避けられないのか?
・米国の大規模な財政金融緩和によりグローバルインフレが進行。
・株安、債券安、ドル高はしばらく続く見通し。
・今のインフレが財政インフレの場合は、中央銀行の利上げは景気悪化をもたらし、景気悪化とインフレが同時進行するスタグフレーションに突入する可能性がある。
グローバル環境の変化
・1995年以降のITデジタル革命で、経営ノウハウと新興国の安価な労働力の組み合わせが可能となった。
・AIやロボティクスによる無人工場、ソフトウェアやアルゴリズムによる定型業務の代替、非定型業務のリモートによる新興国への移転などの変化が進む。
日本経済の長期停滞
・金融危機、ドットコムバブル崩壊、グローバル金融危機など度重なる危機の中で、リスクを取らない経営者が増えた。
・利益が出ても投資せず内部留保することで、コロナ危機を乗り切った企業もあるが、それを成功体験と捉えると、投資のリスクを取らなくなる怖れがある。
・OJT、Off-JTを行わない、コストカットを主流とするなど人的資本への投資を怠り、賃金は上がらず、生産性が上がらない悪循環に陥った。
・短期思考の株主からのプレッシャーが強まるコーポレートガバナンス政策は失敗だった。
・10月CPDコアは前年比3.6%だが、1ヶ月に1回以上購入する品目は7.6%まで上昇している。
・グローバル景気が好転しても利上げできない、グローバル景気が悪化しても利下げできない、日銀の金融緩和が為替を不安定にしている。
・2000年代、政府は高齢化で膨張する社会保険給付への対応として、被用者の社会保険料の引き上げで対処、社会保険対象外の非正規雇用に代替する動きが進んだ。
・賃金が順調に上がらないことを考えると、2%インフレ目標は、中長期目標とする方が良い。
・中立的な機関が財政見通しを示していないのは、先進国では日本だけ。
財政健全化をどう進めるか?
・一律に一斉に価格を引き上げるのは日本だけで、他国は引き上げのタイミングも、対象品目もバラバラである。
・コロナ対策費、全世代型の社会保障費、防衛費等を、社会連帯税として、これまでの消費税とは別物として導入することも考えられるか。
・1970年代から1990年代半ばまでの実質円高トレンドは、相対的な生産性上昇率の高さが主因であり、1990年代半ば以降の実質円安トレンドは、相対的な生産性上昇率の低さが主因(実質実効円レートのグラフは山型)。
質疑応答の中で、以下のお話もされていました。
・円が国際通貨であるうちは国債によるファイナンスができるが、新興国が成長して日本が成長せず相対的に縮小し、円が国際通貨でなくなれば、国債によるファイナンスができなくなる。
・円が国際通貨であるうちに財政健全化を進めるべき。
・日本は育児休暇の制度は整っているが、実際の取得は進んでおらず、財界主導で育児休暇の制度化をしてはどうか。
・軽微な治療も重篤な疾病治療も同じ公的負担割合であるのはおかしい。たとえば軽微な治療は個人負担、重篤な疾病治療は公的負担とするのはどうか。
・日本のサービス業の生産性が低いのは、消費者余剰がGDPに入らないため。10万円の価値ある旅館のおもてなしが2万円の値付けしかされていないプライシングの問題。
グローバル環境の変化を踏まえた日本経済の現状と今後について、著名なエコノミストからお話を伺える貴重な機会でした。